クッキング・ママの告訴状   ダイアン・デヴィッドソン著   集英社文庫

 「クッキングママの真犯人」に続くシリーズ第9作です。今回は冬のスキー・リゾート地が舞台で、寒いのなんの…(爆)相変わらずゴルディは走り回っています。
 郡の衛生局検査官が抜き打ちに現れ、一時休業を言い渡されたゴルディ。キッチンを見ながら心配するのは夫トムも同様。愛蔵の歴史的価値のあるスキーを売ることにしたのだが、その相手が殺され、ゴルディも危ない目に・・・・。
ほんとにもう少し、ゴルディに落ち着いた安らかな生活をさせてやれないものかと思うぐらい、次々にトラブルが起こります。
相変わらず、おいしそうなレシピは満載。ミステリーとしての出来を云々せず、楽しい読み物としてお楽しみくださいね。そこがコージーミステリーなのですから。


猫はブラームスを演奏する   リリアン・J・ブラウン著   ハヤカワ・ミステリ文庫   

ご存知シャム猫ココのシリーズ19作目ですが、時系列で言うと、シリーズ5作目にあたる作品になります。諸般の事情から翻訳が抜けていたそうですが、"諸般の事情"って何でしょうねぇ??このあと6作目にあたる作品も穴埋めされるようです。主人公クィラランが莫大な財産を相続するようになった事情や、初めてピカックスを訪れた様子など描かれていて、とても興味深い作品になっています。
 ストーリーは「新聞記者のクィラランは、女性資産家の招待で、初めてピカックスを訪れた。が、一見平和な田舎町は、謎の悪臭や深夜の悲鳴など怪しげな気配に満ちていた。不信感を募らせるクィラランを尻目に、この地にいち早く順応したシャム猫ココは、カセットデッキのボタンを押して、しきりにブラームスをかけている。ある日、そのテープから犯罪を匂わせる会話が流れてきて・・・・・。」(後ろ表紙より)

 このシリーズはやはり第1作「猫は殺しをかぎつける」から読んでくださいね。今年中には未訳の6作目も刊行されるそうです(^-^)。


翡翠の城   篠田真由美著   講談社文庫

 篠田真由美の建築探偵桜井京介の事件簿シリーズの3作目です。(1作目「未明の家2作目「玄い女神) 日光の名門ホテルを支配する一族の明治時代以来の謎に取り組みます。
 このシリーズの特徴のひとつに主人公が成長する点があります。日本のシリーズ物では珍しいんじゃないかなぁ(赤川次郎の色シリーズがそうですけど、三毛猫ホームズは変化ないですね) 3作目にして、神代教授はイタリア留学から帰ってきて、桜井京介は修論を書き・・・・。少しずつ変化をつけるのはかなり難しいことだと思うのです。
1作目で謎に包まれていた登場人物たちの姿が少しずつ見えてきて、一つ一つの作品の中の謎と共に、そちらも解き明かされるのが
楽しみです。
 内緒だけど、登場人物たちがみんな美形で、面食いの私としてはそれもうれしいところです(^^;; で、美形のくせに表面がさつ、内面繊細。もう最高!(はあと)


R.P.G.   宮部みゆき著   集英社文庫

 宮部みゆきの新作、それも文庫書き下ろしです。RPGはもちろんロールプレイングゲームの略。「模倣犯」には手を出しかねてこちらを先に読んでしまいました。
 ある春の夜、住宅街で中年男性が刺殺体で発見された。警察の調べにより、その3日前に都心で女子大生が絞殺された事件との関連が判明したが、捜査は手詰まりに。一方、被害者はネット上で「疑似家族」を作っており、錯綜した人間関係が拡がっていた・・・。(あらすじより)なんとネットで立ち読み(32ページまで)ができますこちら
 一気に読みました。でも宮部みゆきファンだからこそあえて苦言を言わせてもらえれば(以下はネタばれの危険もありますので、読んでない方はお読みにならないでくださいね)

 現実にも昨今ネットや携帯電話の出会い系サイトで知り合った人たちの殺人事件が起こって、ネットや出会い系サイトなどが危険
であるかのように言われていますね。その意味では最新の世相を反映した作品と言えるとは思うのですが、う〜ん、現実の事件でもそうですけれど、結局犯罪に至る人間関係というものはネットだからというものではないんですよね。そこを新味が出せるかと思ったのが残念だったのと、その中年男性のネット上での「擬似家族」へののめり込みがもうひとつ書けてない。単なるえさだったのなら書かなくても良かったのかもしれないのですが、それだとあまりにもネットの存在感が希薄になり過ぎて看板に偽りありになってしまいます。それと犯人の予測が簡単にできてしまう。
犯人の炙り出し方は法廷モノを思い起こさせて良かったんですけれど、紙数を取りすぎ。もう少し練りこんでから発表してほしかったな。



玄い女神   篠田真由美著   講談社文庫

 篠田真由美の建築探偵桜井京介の事件簿シリーズの2作目です。(1作目「未明の家」はこちら) 2作目にしてシリーズ中の異色作になるべく計画された本書は、ミステリーというよりは小説ですね。ミステリーらしいわなはあちこちに仕掛けられてるんだけど、う〜ん、私にはネタばれだったかな。だからといってこの小説の魅力を失うというものではありません。やはり1作目で桜井京介に感情移入している読者は読んでしまう。
 旅先のインドで橋場亜季人が不可解な「密室」死を遂げた。10年後、橋場の恋人だった狩野都は群馬山中に「恒河館」を建て、当時の旅行仲間たち、そして桜井京介を招く。ミステリアスな「館」で展開される真相解明劇。そこへさらなる悲劇が……
。(後ろカバー解説より)
篠田真由美の目で見たインドの情景もたいへん興味深いものです。遠藤周作とも違う視点から描き出しています。インドはたぶん一生行かないであろう憧れの地です。


未明の家   篠田真由美著   講談社文庫

 篠田真由美は本格派風を書く新しい作家の一人ですが初めて読みました。"館もの"で、クイーンあたりの雰囲気かなぁ。この手の小説の場合、探偵役とその周りの登場人物のキャラに感情移入できるかどうかにかかってくるんですけど、私は素直に読めました。"建築"に関心が強いせいもあるかもしれません。
 大学教師の桜井京介のところを訪ねた美少女(ここポイント)の依頼は、スペイン風の別荘の鑑定とその主の祖父の死の謎を解くことでした。複雑な人間関係が絡み合い、重厚な仕上がりになっています。京介の方の人間関係にも様々な謎を秘めて、シリーズを読み進むのが楽しみです。ごいっしょに楽しみませんか?


チャリティーバザーの殺人    キャロリン・G・ハート著  ミステリアス・プレス文庫

ミステリ専門書店店主アニーとマックスのシリーズも9作目になりました。1作目で知り合ったアニーとマックスは、2作目で結婚し、街にもすっかり溶け込んでいます。今回は街の年1回のチャリティーバザーの準備中に殺人事件が起こります。アニーの活躍はいかに…といったところです。
このシリーズのみそは"ミステリ専門店"というところにあり、随所にミステリの薀蓄を感じることができます。そのマニアックな知識についにやりとしてしまうこともしばしばです。邦訳ではご親切なことに、編集部がガイドをつけてくれています。すれっからしのミステリファンでも楽しめるんじゃないかしら?おひとついかがですか?



東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ    遙 洋子著  筑摩書房

 私はケンカが弱い。後からあ〜言えば良かった、こ〜言えば良かったと思うことばかり。ケンカを学びたくて読んでみました(爆)
上野千鶴子という人は、京都の短大かなんかにいらした頃から、新聞等で見て、フェミニズム(女性学)を学問の対象とされていることは知っていましたが、フェミニズムで東大教授になれるのかと少々驚きました。時代は変わっているのですね。中ピ連等過激なウーマン・リブ活動の時代を知っていると、どうもフェミニズムというと敬遠してしまいます。遙洋子さんは大阪のタレントさんで、年齢を絶対言わないのがキライでした。妙に厚化粧なのも、妙にかんだかい声なのも…。
 その遙洋子さんが縁あって、東大の上野千鶴子ゼミに1年間通ったレポートが本書です。その勉強量たるやすごい!すごい量の文献(英文も含んで)を1週間で読みこなし、理解し、自分なりの考えをまとめる。。。実に楽しそう。私もこんなゼミなら勉強しなおしてみたい(はあと)。タレント活動は続けながらそれをなんとかこなしていった遙さんは理論武装以上のものを得たようです。
ケンカのしかたはちゃんと十か条にまとめてあります。でもそこだけを取り出すのではなく、1年間の歩みを通してみてくださいね。上野千鶴子さんがなにゆえフェミニズムを学問の対象として選んだのか、興味のあるところです。またどこかで目にすることもあるかもしれません。
上野流のゼミのやり方、それを垣間見ることができるだけでも一読の価値はあるでしょう。


フローリストは探偵中
   ジャニス・ハリソン著   集英社文庫

コージー探偵に新しい職業"フローリスト"が登場しました。主人公ブレッダ・ソロモンはミズーリ州の小さな町でおしゃれな生花店を経営しています。1年ちょっと前に保安官助手だった夫を無くし、そのストレスから立ち直れずに仕事に打ち込んでみても寂しさは癒されず・・・。そんなとき生花を生産していたアーミッシュの青年が殺され、犯人探しに首を突っ込むことになります。アーミッシュ、キルターにとってはなじみの深い人たちですが、彼らの生活習慣が事件の大きな要素として描かれています。(残念ながらキルトの場面は登場しませんが主人公ブレッダの夫の死から立ち直れずに悩む繊細さと、好奇心旺盛でおどかされても犯人探しに取り組むガッツに共感を覚えます。彼女はこの1年で心労とダイエットで45kgの減量に成功しました。その体型を維持する為にどれほど毎日の食事に気を使い努力を続けているか、それもこの作品の大きなテーマになっています。生花の生産から流通、新種の開発競争、フローリストの日常などの薀蓄も見逃せません。盛沢山な内容と言えるかな。
シリーズ2作目はすでに上辞されているようです。日本での出版が待たれます。



略 奪
   アーロン・エルキンズ著   講談社文庫

「洞窟の骨」をご紹介したアーロン・エルキンズの美術ものです。アーロン・エルキンズにはクリス・ノーゲンを主人公にした美術ものが既にあるのですが、この「略奪」では新しい主人公ベン・リヴィアを誕生させました。ベンは学生時代にベンチャービジネスを成功させたのにあっさりやめて(権利は売った)、大学に入りなおし美術史の学位を取ってボストン美術館学芸員になったのですが、それもやめてしまい、次にハーバート大学の教職についたのに、またやめてしまい、妻にも去られたという経歴の持ち主で、定職はないものの教育があり、働かなくても食べていけるんだけれど漠然と日常生活に不満を抱いている中年男です。(ふふふ、なんとなく専業主婦の不満と似てると思いません?)そのベンがナチスの略奪絵画の事件に巻き込まれて、ヨーロッパ中を駆け巡る羽目に陥って殺されかけたり…でも恋も生きがいも見つけるという物語です。
アーロン・エルキンズの作品はストーリーはもちろんですが、作中に織り込まれた様々な薀蓄が楽しいのです。新しい知識と興味の対象は得がたいものですが、無理なく脳に染み込む気がしています。
新しい主人公なので、そのキャラにおそらく作者自身も私たち読者もなじみにくいというマイナスはありますが、これからも書き続けていくそうですので、期待を持っていいんじゃないかしら。これからが楽しみです。


おばちゃまはシリアスパイ   ドロシー・ギルマン著   集英社文庫

ごくふつうのもう初老と言っていいおばちゃまが、CIAのスパイになって活躍するおばちゃまシリーズも14作めになりました。おばちゃまの名前はミセス・ポリファクス。ガーデニングと空手が趣味で、派手な帽子が好きなごく普通のおばちゃまです。そのおばちゃまがどういうはずみでスパイになったのかは1作目「おばちゃまは飛び入りスパイ」をお読みいただくことにして、今回は行方不明の若いアメリカ人女性をシリアで探します。"ほんもの"のスパイ小説を読みなれたものにとっては、ストーリーのご都合主義がなんとも安直で、サスペンスもぬるま湯のようですが(おばちゃまとはいえ敵につかまることもありますし、ハラハラドキドキの逃走シーンも拷問シーンもいちおうあります)、それが息抜きに読むのにはぴったり。おばちゃまの明るさに乗せられて、何があっても必ずうまく行くと安心の保証付で楽しむことができます。水戸黄門的とでも言えるのかしら。
ひとときストレス解消におすすめします。


チーズはどこへ消えた?   スペンサー・ジョンソン著   扶桑社

今話題の本です。帯には「全米で2年間にわたってベストセラー・トップを独走!この物語があなたの人生を変える!」となっています。こういうの、眉唾ものなんですよねぇ。でも838円だったのでつい購入してしまいました。

物語は、二匹のねずみと二人の小人が迷路の中で、チーズを探し、チーズを見つけ、ある日突然チーズを失い、またチーズを見つける(あるいは見つけない)というお話です。
いち早くチャンスをかぎつける、ねずみのスニッフ(匂いをかぐ、〜をかぎつけるの意)
すぐさま行動を起こす、ねずみのスカリー(急いで行く、素早く動くの意)
いっそうまずいことになりはしないかと怯えて変化を認めず、変化に逆らう、小人のヘム(閉じ込める、取り囲むの意)
もっといいことがあるに違いないとうまく変化の波に乗ろうとする、小人のホー(口ごもる、笑うの意)
 
チーズとは仕事,財産,家庭,名誉などの象徴で、他愛のない"寓話"なのですが、これにわざわざ前文や後文がついていて、自分はどれであるか、またどれでありたいか、どれにならなければならないか、この寓意を正確につかみとった個人または企業(企業ぐるみで買えと暗に薦めています)は成功を収め、そうでない個人または企業は失敗に甘んじていなければならないと書かれています。本文中にも「変化は起きる・変化を予期せよ・変化を探知せよ・変化にすばやく適応せよ・変わろう・変化を楽しもう・進んですばやく変わり再びそれを楽しもう」と明記されてます。企業内にも家庭内にもヘムはいらないようです。この物語をIBM,GM,アップルなどの企業がこぞって社員研修に採用しているそうです。

変化(時流)に乗ることもひとつの生き方かもしれません。しかしそれが必ず"成功"に結びつくとは、特に個人レベルの場合は言えないと思いますし、企業レベルの場合でも必ずしもいえないのではないでしょうか。時(チャンス)には前髪しかないからすばやくつかめと教え込まれているアメリカ人の発想だなとは思いますが、物語にイソップほどの示唆も含蓄もなく、実につまらない"寓話"です。企業経営コンサルタントのパンフレットでももう少しましなこと書いてあるんじゃないかしら。
変化したい、あるいは変化しなくちゃいけないと考えている人には背中を押す効果があるのかもしれません。
そうでない方には、わざわざ読むことはお薦めしません。どうしても読みたい方、お送りしますのでご連絡ください(先着1名様)
ちなみに私はスカリー・タイプです。それで得をしたと思ったことはありません。


洞窟の骨   アーロン・エルキンズ著   ミステリアルプレス文庫

「古い骨」で鮮烈なデヴューを飾ったのは1989年(邦訳)のことでした。探偵役はギデオン・オリヴァー。形質人類学の教授です。ギデオンは骨を調べてその生前の姿を推理できる特殊な学識と技量があり、殺人事件を追う警察の捜査に協力するうちに、本人は好んではいませんが"スケルトン(がい骨)探偵"の異名を与えられています。この「洞窟の骨」は邦訳9作目。愛妻ジュリーとヨーロッパ休暇旅行中のギデオンはクロマニョン人の遺跡で、殺人事件に遭遇します。被害者は考古学研究所の関係者で、おのずと以前にこの遺跡であったニセ発掘事件との関係を連想させ、この2つの謎をからめています。クロマニョン人やネアンデルタール人、教科書にも書いてありますが、その位置付けは確定していないようです。日本でのにせものの石器を埋めておいた事件はまだ記憶に新しいところですね。ギデオンは骨を調査に行って、犯人に殴られたり本格物の探偵にしてはハードボイルドですが、ジュリーの助けもあり、事件は解決へ。ジュリーは、国立公園の森林保護官をしていて、前夫人を交通事故でなくしていたギデオンと、シリーズの中で知り合って結婚し、おしどり探偵の雰囲気もかもし出しています。
著者アーロン・エルキンズも前身は人類学の教授で、ホンモノの知識に支えられた謎解きは優れていて齟齬がありません。ギデオン夫婦が旅行に行って事件に巻き込まれるというパターンも、各地の案内も盛り込まれ、楽しいシリーズです。まずは「古い骨」からお読みになってはいかがでしょうか。たった1本の骨からどんなに多くのことが読み取れるものか驚くばかりです。
アーロン・エルキンズには、美術館の学芸員クリス・ノーグレンを主人公にした美術の世界の裏側を描いたシリーズもあり、こちらもお薦めです。


クッキング・ママの真犯人   ダイアン・デヴィッドソン著   集英社文庫

このシリーズも8作目になりました。探偵役であるゴルディは、夫の暴力で離婚、専業主婦からケイタラー(お料理の出張サービス業)に転身、思春期の息子一人の中年女性という設定で始まりましたが、シリーズの途中で刑事と結婚、でも相変わらず暴力前夫には悩まされつづけています。
8作目の「真犯人」では前夫の嫌がらせでライバルのケイタラーが登場し・・・おなじみ殺人事件が起こり・・・まあ丸く解決するというお決まりストーリーが展開します。で、どこが面白いの?と思われるかもしれませんが、主婦として母として等身大の探偵というのもなかなか楽しいものです。
主人公がケイタラーですから、作品中に随所にお料理のレシピが載せられています。依頼人の希望でやたら脂肪たっぷりメニューだったり、モデル向きローカロリーメニューだったり、アメリカ人の食生活を垣間見ることも出来て、楽しいものです。なかなかおいしそうですが、残念ながらまだ作ったことはありません。


話を聞かない男、地図が読めない女   アラン&バーバラ・ピーズ著   主婦の友社

この手のベストセラーの教養本(?)の類は読まないことにしているのですが、たまたま薦められて読みました。
パートナーに少しでも不満を感じている方には読むことをオススメします。
その不満は、パートナー個人の問題ではなくて、男脳・女脳の違いなのかもしれないのだから。
もともと男と女は、「たまたま同じ地球に住んでいる異星人」ぐらいちがうものなのだそうです。
「男脳・女脳テスト」があります。生物学的な性とは異なる結果が出るかもしれません。
自分の脳と相手の脳の傾向を知り、それぞれの脳の特徴を理解すれば、無用の衝突で破綻するカップルも少しは減るのではないでしょうか?
もう少し早く知っていれば、無用な別れを経験しなくてすんだかもしれませんよ。


クロスファイア   宮部みゆき著   カッパ・ノベルス

あなたは超能力者の存在を信じますか? 超能力と言えばあのスプーン曲げの手品師のことを思い出してしまって(古い?)、印象悪いのですが、欧米では公的な機関で真面目に研究されています。そう、武器として。
クロスファイアはそんな武器・念力放火能力を持ってしまった青木淳子の哀しい物語です。彼女はその力を”正義”のために使おうとします。リンチ、殺人・・・残虐な行為を繰り返す若者たちを自らの超能力を使って、処刑していくのです。
それは社会にとって許されることなのでしょうか?
正義ってなんでしょう?
さまざまな思いを呼び起こしてくれます。

宮部みゆきは「火車」で注目されて以来、精力的に活動を続けています。ストーリーテラーとして当代随一ではないかと思っています。クロスファイアは彼女の作品の中で初めて映画化されました。ぜひお読みください。

 
                       
猫は鳥と歌う   リリアン・J・ブラウン著   ハヤカワ・ミステリ文庫   
ご存知シャム猫ココのシリーズ18作目です。三毛猫ホームズの大先輩のシャム猫ココの推理はさえわたり・・・。
でもね、シリーズ18作目にもなると推理なんて二の次なんです。ココや飼い主クィラランとその周りの人たちの人間模様を読むのに忙しく、犯人探しなんて、そっちのけ。そこがコージーのコージーらしいところです。
私が新刊が出れば必ず買うシリーズの一つです。
 ストーリーは、裏表紙を転載しますと、クィラランの屋敷の近くにアート・センターが完成した。開館直後クィラランがココを連れてセンターを訪れると、複数の絵画が盗まれていることが判明した。さらにセンターの前に住む風変わりな老婦人コギンの農場が火事になり、中から彼女の焼死体が。死ぬ直前、彼女が土地を売って大金を手にしていたと知ったクィラランは、絵画の盗難事件と不審な火事との関連を探る・・・・・・鳥と遊ぶシャム猫ココが導いた意外な真相は?

 「猫は殺しをかぎつける」で登場したシャム猫ココは均整の取れた優美な猫で、テンダーロインと自家製パテを好むグルメぶりで、飼い主クィラランをあごでこき使い、事件を解決へ導きます。なんといっても字が読めるんですから。
できればシリーズ1作目から順に読んで、波乱万丈ココとクィラランの物語をお楽しみくださいね。
この表紙の絵、シャム猫かしらね?

イエスの遺伝子   マイケル・コーディー著   徳間文庫

「遺伝子工学」って知ってる?なんかヒトゲノムの解析とか、遺伝子組み替え植物とか、ちょっと前ならクローン羊とか話題になってたけど、さて何でしょう?医学の分野では「遺伝子治療」はすでに実用化されてるらしい。「イエスの遺伝子」は最先端の遺伝子工学とキリスト教の謎をからめた、2002年が舞台のエンタテイメントです。
 物語はヒトゲノム(人間の設計図ともいえる遺伝子の内容)をすべて解読する装置を開発した功績でノーベル賞を受賞した主人公トム・カーターが愛娘の遺伝子を調べて彼女が脳腫瘍を発病することを予知し、その命を救おうとするところから始まります。その究極の治療法としてカーターの考えついたのが、すでに奇跡的な治療能力を持っているとされる人物、その中でも最も歴史上有名な人物、すなわち神の子イエスの力(イエスの遺伝子の力)を借りるという方法だったのです。

 この荒唐無稽とも言えるアイデアを、リアリティのある実にすぐれたサスペンスに仕上げたのは、この作品が処女作のイギリス人、マイクル・コーディーです。「現在でもキリストのほんものの生物学的遺物を見つけることは可能なのだろうか?もしも可能ならそれによってどんな事実が明らかになるのだろう?」作者コーディーの言葉ですが、イエスの遺伝子があれば、イエスのクローンができるのではないか、すべての人がイエスになれるのではないか、可能性はつきません。「It's possible」これは出版社の宣伝用のキャッチコピーですが、確かに「起こり得ること」なのではないでしょうか。
 「遺伝子工学」という最先端のテクノロジーをエンタテイメントの形で簡単に学べる、そんな読み方もできるのではないかしら?この作品はディズニーで映画化される予定です。観る前にご一読ください。ソンはないですよ。