ダ・ヴィンチ贋作計画  トーマス・スワン著   角川文庫

 名画もののミステリーってけっこう好きでよく読みます。これはダ・ヴィンチのデッサンノートの贋作を作ろうと言うものです。
後ろ表紙より『債券偽造の罪で服役中のスティールにその手紙が届いたのは、出所十日前だった。差出人は、不明。しかし、手紙にはかつて自分が偽造した百ドル札が同封されていた。スティールは手紙の指示通り、出所した足で謎の男に会いに行く。男は美術商カレムと名乗った。金回りのよさそうな巨漢の男は、単刀直入に前代未聞の贋作計画を持ちかける。歴史の闇に埋もれた多数のレオナルド・ダ・ヴィンチ作品を現代に蘇らせようというのだ。成功すれば総額一億四千万$!半ば脅されるままに、計画に乗ったスティールだが…。欲望うごめく美術界の裏を綿密に、そして大胆に描く、ピカレスク小説の逸品。』

こうゆうのって普通うまく行って終わるんですよねぇ。うまくいかなかったにせよ、ニヤリで終わってほしいんですけど、もうはじめっからチームワークがたがたで、計画はずさんだし、警察には目をつけられてるし…。それをなんとかうまく切りぬけるのかって期待だけで読み進んだのですけど、期待は見事に裏切られました。「美術界の裏」も通り一遍で目新しい深い知識を与えてくれるということもありません。は〜(ため息)
凍える牙  乃南アサ著   新潮文庫

 乃南アサ、初めて読みました。なんか食わず嫌いでね(^^;; 『深夜のファミリーレストランで突如、男の身体が炎上した! 遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年デカ・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は何なのか? 野獣との対決の時が次第に近づいていた――。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラー』だそうです。
 ハードボイルドの範疇に入るのかなぁ。ミステリーとしてはたいしたことない。
生きている人間をいきなりファミレスで燃え上がらせるという始まりで引き込ませるが、けっこうポピュラーな薬品らしいのに模倣犯が現れないところを見ると、どっか欠陥のあるトリックなんでしょうねぇ。この主人公の女性刑事・貴子にすんなり感情移入できる点、またもう一人の主人公といえる狼犬・疾風(はやて)の描写が秀逸で、一気に読めます。それだけで十分読む価値はあります。疾風がなんともすばらしい。あんな男がいてほしい、作者の願いなんだろうなぁ。もちろん私も同じく…。
 続編に「鎖」がありますが、まだ文庫にはなっていないので、おあずけかなぁ。乃南アサも宮部みゆきと同世代。すごいねぇ。

(ここからネタばれ注意)

実は犯人は2人いて、主題が2つに分離しているのだけれど、、その華やかな炎上殺人をする方の犯人の人間が描けてない。それだけの殺人をする動機が弱くて、目を奪われた分裏切られたような気がしてしまう。狼犬を操ってるほうの犯人も、動機がなんとも類型的で、現実感に乏しいかなぁ。読んでるときはそんなに気にならないんですけどね。



小さい犬の生活  津田直美著   中公文庫

決して犬好きというわけではないのですが、書店で表紙のイラストに引かれ、ぱらぱら見てかわいいので買ってきてしまいました。犬の生活研究家のポピー・N・キタイン著 津田直美 画ということになってます。著者はヨークシャーテリア。犬の食生活、犬の危険、犬の鼻道楽、人間の言葉や習性、犬の学問などが、かわいいイラストともに紹介されています。津田直美さんは童話作家らしいです。かわいい中にも人間への巧まざる批判があったりして…(^^;; 犬を飼っていなくってもほほ〜っと思うことがいっぱい。ほのぼのしたいときにぜひどうぞ!(注:本書は「犬の飼いかた」の本ではありませんので、お間違えのないよう)


センティメンタル・ブルー  篠田真由美著   講談社NOVELS

篠田真由美の建築探偵桜井京介の事件簿シリーズの9作目です。事件簿としては番外編で、京介達の影はちらりとのぞく程度。蒼の11歳から20歳までの4つの事件で、蒼という人がより深く感じられるかな。
 性同一性障害がテーマになっている連作があるのですが、最近大阪の美容整形病院で亡くなった人もいたり、元女性の競艇選手が男性として登録すると発表したりで、普通に知られるような言葉になってきましたが、何%くらいの発症率なんでしょうねぇ。自分の性になじめないっていうことが大きな障害になるようなんですけれど、男性であること、女性であること、それがそんなに大きな問題なのかしら。まず人間としてどうあるかってことでしょう?性同一性障害の男性というのは、より女性らしい女性になりたがっているようで、どうも理想が先走ってるような気がします。で、結果、治療を受けても満足できない。。。そりゃそうでしょう。
 例えば自分の容貌が気に入らない人が私はもっと美しくあるべきだって、容貌同一性障害だって主張したとして、それは病気なんでしょうか。例えば治療したとして、それは限りなく不幸なんじゃないでしょうか。頭脳にしたってそうでしょう? 持って生まれたものを嘆くことに全精力をかけるのではなく、なぜそれを生かす方向に頭を切りかえられないのかしら。一種の精神的な病気なんでしょうねぇ。そういうものに囚われて生きるのは不幸ですね。そういうものに囚われない生き方を身につけさせるのが治療のあるべき姿だと思います(もし治療というものが必要だとすれば)



ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本
                               向山淳子+向山貴彦著 幻冬舎
はっきり言って英語は苦手です(^^;; いちおう英検2級は取っているのですが、どうもコンプレックスがしみ付いて... 「世界一簡単な英語の本」ほんまかいな?読んでみました。
 英語を「学ぶ」ということは、英語を「読む」ということで、たくさん読むことによって、「無意識の記憶」を蓄積していけば自然に「聞く」「書く」「話す」ということができてくる、文法は最小限度しか要らない。そして言語はある日突然ジグソーパズルが組み合わさって絵が見えるように霧が晴れて分かるようになる・・・そうです。
 確かにずっと英語の授業を受けてきて1冊の本も読みとおしたことはありません。細かい文法を覚えさせられて(覚えきれないで)いただけ。それは野球をルールブックのみで理解しようとするのと同じだと解きます。ふ〜ん、なるほど〜と早速買ってきたのは「ハリーポッターと賢者の石」。邦訳が出ているところがみそ。いざとなったら邦訳に頼ろうっと〜。最低限これだけは、という文法はビッグ・ファット・キャットといっしょに勉強できます。だまされたと思ってやってみてもいいかも〜。けっこうこのねこかわいいでしょ?



世界がもし100人の村だったら
             池田香代子/再話 C.ダグラス・ラミス/対訳   マガジンハウス
『今朝、目が覚めたとき、あなたは今日という日にワクワクしましたか?今夜眠るとき、あなたは今日という日にとっくりと満足できそうですか?今居るところが、こよなく大切だと思いますか?すぐに「はい、もちろん」と言えなかったあなたにこのメールを送ります。これを読んだらまわりがすこし、違って見えるかもしれません/世界には63億人の人がいますが、もしそれを100人の村に縮めるとどうなるでしょう?/100にんのうち52人が女性です。48人が男性です/30人が子どもで70人が大人です。そのうち7人がお年よりです/90人が異性愛者で、10人が同性愛者です/70人が有色人種で、30人が白人です/61人がアジア人です。13人がアフリカ人、13人が南北アメリカ人、12人がヨーロッパ人、あとは南太平洋地域の人です/33人がキリスト教、19人がイスラム教、13人がヒンドゥー教、6人が仏教を信じています。5人は木や石などすべての自然に霊魂があると信じています。24人は他のさまざまな宗教を信じているか、何も信じていません/17人は中国語をしゃべり、9人は英語を、8人はヒンディー語とウルドゥー語を、6人はスペイン語を、6人はロシア語を、4人はアラビア語をしゃべります。これでようやく村人の半分です。あとの半分はベンガル語、ポルトガル語、インドネシア語、日本語、ドイツ語、フランス語などをしゃべります/20人は栄養が充分でなく一人は死にそうなほどです。でも15人は太り過ぎです/すべての富のうち6人が59%を持っていて、みんなアメリカ合衆国の人です。74人が39%を、20人がたったの2%を分け合っています/全てのエネルギーのうち20人が80%を使い、80人が20%を分け合っています/75人は食べ物の蓄えがあり、雨露をしのぐところがあります。でもあとの25人はそうではありません。17人はきれいで安全な水を飲めません/銀行に預金があり、財布にお金があり、家のどこかに小銭が転がっている人は一番豊かな8人の内の一人です。自分の車を持っている人は一番豊かな7人のうちの一人です/村人のうち1人が大学の教育を受け、2人がコンピューターを持っています。けれど14人は字が読めません/もしもあなたがいやがらせや逮捕や拷問や死を恐れずに、信仰や信条、良心に従って何かをし、ものがいえるなら、そうではない48人より恵まれています/もしもあなたが空爆や襲撃や地雷による殺戮や武装集団のレイプや拉致におびえていなければ、そうではない20人より恵まれています/1年の間に村では1人が亡くなります。でも2人赤ちゃんが生まれるので来年村人は101人になります/・・・/たとえあなたが傷ついていても傷ついたことなどないかのように愛してください。まずあなたが愛してください。あなた自身と、人がこの村に生きてあるということを。もしもたくさんのわたし・たちがこの村を愛することを知ったならまだ間に合います。人々を引き裂いている非道な力からこの村を救えます。きっと』
 長々と引用しましたが、朝日新聞の天声人語でも取り上げられた、元はチェーンメールのお話です。元がチェーンメールであった点、出てくる数字が統計上正しいかどうか疑問を感じていた点で、胡散臭さを覚えていたのですが、この本はそれを払拭します。チェーンメールの背景、出典を調べ、可能な限り統計に基づいて、これをインターネット上に生まれた民話として再話しています。
 この世界のどんなに「恵まれた」側にいるか、気がつけば恐ろしいものがあります。また引用になりますが『このネットロア(ネットで生まれた民話:引用者注)と、2001年9月11日に始まった一連の出来事とは決して切り離せないだろう。ある種の世界意識のようなものが覚醒し、もはや天文学的なまでに開いてしまった貧富の差に危機感を覚え、このネットロアの中にその目を静かに、しかししっかりと見開いたのではないだろうか。そのまなざしの先にあった不吉な予感がまるで的中したかのように、事件は起こった。・・・・・おそらく2001年9月11日が「世界が変った日」ではなく、「世界が変り始めた日」になるということが、このネットロアの予言であり、希望なのだ。』 まずはこの村の「最も恵まれた」1人であるという自覚をもって責任を果たすこと、それに気づくことがまず「世界市民」でありたい、あるべきだと思う第一歩なのでしょうね。このメールが誰に強制されたわけでもない、善意の人達の手によって世界中に伝播されていったという点に希望を感じます。





この人はなぜ自分の話ばかりするのか
                       ジョーエレン・ディミトリアス著   ソニーマガジンズ
「こっそり他人の正体を読む法則」という副題がついていますが、う〜〜ん、そんなにお手軽に人を読めるようになったらコワイ...(笑) この本を読んだからといってそんなに一朝一夕には・・・。
 本筋に関係なく面白かったのは、著者の陪審コンサルタントという職業。実にアメリカらしい職業なのです。アメリカの裁判に陪審制度があると言うことは知っていましたが、その12人の陪審員を検察・弁護双方の側から選定するという作業があるとは寡聞にして知りませんでした。何人かはちょっと分からないんですけれど、12人より多い数の陪審員候補の人を呼び出しておいて双方から質問等をした上で、陪審員を選び出すという作業があるのです。陪審制度は「12人の人間を選んで、検察官と弁護人のどちらが好きかを決めさせるゲームだ」といわれるくらいで(もちろんブラックジョークですけれど)、陪審員の選び方ひとつで被告の生死が変ってくる場合もあるわけで、当然その選び方は必死。そのときに自分の側に有利な判断をしてくれそうな陪審員候補者を見ぬいて弁護士に助言を与えるのが陪審コンサルタントというお仕事。著者のジョーエレン・ディミトリアスは陪審コンサルタントとしては第一人者のようで、1992年のロサンゼルス暴動のきっかけを作ったといわれるほどの(ロドニー・キングを殴打したとして訴えられた4人の警官を無罪にした陪審員の選定に関わったから)スペシャリストみたいです。なるほどな〜、そんな職業もなりたつのか〜と感心してしまいました。日本でも陪審制度を取り入れようという動きがありますがどうなるのかしらねぇ。
 その「人を読むプロ」が「人を読むコツ」を教えてくれるというのが本書ですが、ま、読めるようになるかどうかは努力次第ってとこかな(かなり懐疑的)




ママは新人シェリフ J.A.ジャンス著   集英社文庫
とびきり元気な正義の味方、ジョアンナ・ブレイディ。9歳の娘をもつシングル・マザーで、アリゾナ州コーチース郡のシェリフに選ばれたばかり。警察の仕事を身につけるために、警察学校の訓練コースに参加するが、そんな彼女の前に凶悪な連続殺人犯が…。シェリフとして、ひとりの女性としてさまざまな難問に直面するジョアンナの活躍を描く全米大ヒットのシリーズ本邦初公開ですけど、シリーズの3作目。本国では6冊目まで刊行済み。
 なんとも軟弱な邦題だけど(原題Shoot,Don't Shoot)、中身はけっこうハードボイルド。シェリフと言うのはアメリカの郡ごとにおかれる法執行機関の最高責任者で、治安維持から裁判関係事務まで行い、住民の選挙によって選ばれるそうで、西部劇の保安官とはちょっと違うみたい。日本にはその役職はないけど、法務大臣に当たる人を直接選挙で県ごとに選んでる感じなのかしら。27歳の女性にとってはなかなか荷の重い仕事です。
 ジョアンナの活躍は読んでいただくとして、昨今のミステリーを読んでいて気がつくのは、アメリカでの、ドメスティックバイオレンスに対する関心の高さ、同性愛がオープンに語られるようになったこと、離婚率の高さとその結果のシングルペアレントの増加。ミステリーはリアルタイムの社会を映し出しているということができるでしょうね。そういう意味でも面白い。恋人の愛を奪うのが男性か女性か分からないし、女房を寝取ったのが男か女かわからない・・・ミステリーも複雑になろうというものです。


月蝕の窓   篠田真由美著   講談社NOVELS

篠田真由美の建築探偵桜井京介の事件簿シリーズの10作目です。「赤いお月様」は何を語る?少女の記憶が蘇った時、女たちの悲嘆が宿る「月映荘」でまた惨劇が。隣に住む未亡人に招かれた医師が撲殺、未亡人まで銃で狙われたのだ。容疑は精神的に不安定なその少女に。事件の真相は呪われた館の過去、そして京介自身の封印された記憶にからみつく・・・
 多重人格(解離性同一性障害)についての論議が大きなウェイトを占めています。「24人のビリーモルガン」が出てきたとき「篠田よ、おまえもか・・・」といやな予感がしたのですが、なんのなんの、つまらない精神障害に逃げることなく、まとめあげたところはさすがです。
 アメリカでは何かあるとセラピストやカウンセラーのところにかけこむ癖がありますが、セラピストやカウンセラーのレベル、資質に問題はないのか常々疑問に思っていました。病気を治す医師の仕事より難しく本人の資質に拠るところが大きい職業だと思います。実際セラピストが何十人もの幼児に特定の幼稚園職員がセクハラを行っているという間違った記憶を埋め込む事件も起きているようです。心理というものはまだまだ解明されていない部分が多く、一般論で語るとか、治療とかほんとうにできるものなのか疑問に思っています。生半可の心理学の知識は予断と偏見を生んでかえって邪魔になるのではないかしら。日本でもPTSD(心的外傷後ストレス障害)が話題になっていますが(PTSDを理由にしゃあしゃあと離婚会見を開いて自分の著書の宣伝をした人もいましたねぇ)、ある意味、PTSDを起こさなくちゃ行けない、自分で立ち直っちゃ行けないような新しいストレスを生んでいないか、気になるところです。


人形師 ホリ・ヒロシ  別冊太陽   平凡社
書店でぐぐっと引かれて買ってしまいました。写真集です。ホリ・ヒロシという人を寡聞にして、知らなかったのですが、人形師(これは一般名詞なんでしょうか?)であるのはもちろん、舞台で等身大の人形と人形舞(これはオリジナル)を踊り、舞台衣装なども手がけるマルチな方のようです。テレビなどでご覧になった方もあるのではないかしら。
 人形が、本当に美しく、怖いぐらいです。特に女性がたいへん美しい。難を言えばちょっと首が長すぎるかな。本物の俳優さん(田村正和さん、若尾文子さんなど)の衣装デザインを依頼されるくらいですから、お人形の衣装も細部にまで目が行き届いているお仕事で、ほんとにすばらしい。妖艶な人形もさることながら、御伽噺や十二支のお人形などもたいへんユーモラスでかわいらしいものです。
 この本は、ホリ・ヒロシ人形展の公式展示カタログを兼ねているそうで、2002年1月11日から大阪梅田大丸ミュージアムで「ホリ・ヒロシの人形絵巻ー源氏物語の世界を中心に」展、5月29日から東京日本橋三越を皮きりに全国で「まんだら源氏物語展」が開かれる予定になっています。また常設展として京都の「宇治市源氏物語ミュージアム」では47体の人形による映画「浮舟 源氏物語より」が上映されているそうです。たまには耽美派もいいかも…



ポケットにライ麦を
   アガサ・クリスティー著   ハヤカワ・ミステリ文庫

買い物に行くと書店に寄るのは習慣で、でも買いたい新刊がなかったので、ふと思いついて買い求めました。クリスティーは超有名ミステリ作家ですが、実はむか〜し(もう30年以上前になりますねぇ)どうにも好きになれずに読み捨てた作家です(とはいえ20冊以上は読んでると思いますが) 今回読んでみようと思ったのは、最近私がはまっているコージーミステリーの原点がクリスティーのミス・マープル物にあると言われている点と、私もミス・マープルの年齢に近くなって(笑)何か違うかもしれないと思ったからでした。「ポケットにライ麦を」は後表紙の「燦然と輝く中期傑作長編」という語に引かれたのですが、、、う〜〜ん、やっぱりなぁ。。。時代設定の古さとテンポの悪さ、訳のまずさは置いておくとしても、「それはないやろ」「そら無理やで」の連続。ネタばれになるので書けませんが、確かにミステリーは絵空事の世界ですけど、それはそれで筋は通してほしいものです。日本で言えば山村美佐かな。クリスティーはミスマープルに限らず、ポアロものでもとにかく論理が通らない、そのことを再確認する結果に終わりました。ま、はまらなくて良かったかもしれません。読み出したら、いったい何冊あるんでしょうねぇ...こわかった。。



仮面の島   篠田真由美著   講談社NOVELS

篠田真由美の建築探偵桜井京介の事件簿シリーズの8作目です。舞台はヴェネツィア。「ヴェネツィアの島に隠棲する未亡人。悲劇はラグーナの香りにのって・・・」
う〜〜ん、ミステリーかしらねぇ。殺人事件が出てくるからってミステリーにジャンル分けすることもないですよねぇ。「愛」がテーマの連作としか思えません。犯人あてが目的では決して読めません。
 しかし、篠田という人はまずは旅人だったんですね。観光客ではなく・・・。ここではヴェネツィアですけれど、世界のさまざまな都市の篠田風評価が垣間見れて楽しいものです。





桜闇
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(さくらやみ)   篠田真由美著   講談社NOVELS

篠田真由美の建築探偵桜井京介の事件簿シリーズの7作目です。とは言っても短編集で、雑誌掲載の7編(改訂済み)に書き下ろし3編を加えた10編になっています。短編はあまり好きではないのですが、登場人物達のエピソードと言うことで、楽しく読みました。あちこちの建築や、建築家の仕事にも触れて・・・。
 巻末に京介たちの年表がついています。きちんと時間軸を把握できていいかもしれません。






美貌の帳(とばり)   篠田真由美著   講談社NOVELS

篠田真由美の建築探偵桜井京介の事件簿シリーズの6作目です。時間軸としては「
翡翠の城のあと。伝説の女優が『卒塔婆小町』で復活。その凄絶美が地獄の業火をもたらす!(講談社の紹介文)
 建築としてはジョサイア・コンドルの鹿鳴館が取り上げられています。全く知りませんでした。近世建築史って建築学の中で取り上げられることの少ない分野なのかもしれません。京介の目のつけどころはいいかな(笑)
 「愛」ってなんだろう?篠田真由美のテーマのようですが、ここではその類まれな美貌ゆえに、人としての中身ではなく美貌を愛されてしまう伝説の女優の苦悩が描かれます。小野小町伝説を本歌取りにして…。愛すればこそ生まれてくる悲劇、そこから生まれてくる殺人は必然とさえ思えてきて、これはミステリーなのでしょうか。篠田の作品の中で犯人がほとんど警察に引き渡されずに終わるのも当然ですね。




原罪の庭   篠田真由美著   講談社NOVELS

篠田真由美の建築探偵桜井京介の事件簿シリーズの5作目です。時間軸としては「灰色の砦」のすぐあと。深春がやりきれない思いで放浪の旅に出ている間に、京介は蒼と出会います。また蒼も10歳にしてすごい人生。。。ちょっと書けないですねぇ。第1部の終わりだそうです。
 ミステリーとしては新本格派にはいるんでしょうかねぇ。島田荘司ばりの無茶なトリックとおどろおどろしさも文章力でカバーして読ませてますが、かなりマニアックかなぁ。上流階級の暮らしを細かいディテール込みで書いていてそれもお好き好き。前にも書きましたけど、少女マンガの世界。私ははまってます。





灰色の砦   篠田真由美著   講談社NOVELS

篠田真由美の建築探偵桜井京介の事件簿シリーズの4作目です。京介と深春の19歳の冬、二人が知り合ったきっかけが語られます。それはもちろん、殺人事件。
 篠田真由美の殺人事件は、被害者もそして加害者もどうしようもなく悲しい。殺人に至らなければならなかった人間関係のせつなさ、そこに引き込まれてしまうのでしょうねぇ。「翡翠の城」でちょっとでてきたフランク・ロイド・ライト(アメリカの著名な建築家)についての薀蓄がいい。





エンドウと平和   ジル・チャーチル著   創元推理文庫
出ると必ず読む、シリーズ8作目のコージーミステリーです。主人公のジェーンはシカゴ郊外の住宅地に住む、高校生を頭の二男一女の子持ちの、夫を事故で亡くした(これについては紆余曲折があるのですが)専業主婦。子ども達を起こして回り、学校へ送り届け、PTAや地域の活動をし・・・。日本と変らない忙しい主婦の生活です。シリーズが進むにつれて子ども達は成長し、ジェーンもシリーズ1作目で知り合った年下のヴァンダイン刑事さんとはいい関係になって・・・。
 本書では、ジェーンは大親友のシェリィ(この二人の関係がまたいい!)とボランティアで移転準備の手伝いに行っていた「豆博物館」で、館長の殺人事件に巻き込まれ・・・・。
 題の「エンドウと平和」はもちろん「戦争と平和」のもじりですが、原題は「War and Peas」。原題ではエンドウをPeace(平和)の方に、邦題では戦争の方にかけてあるのが一興です。このシリーズは全て、題を良く知られた映画や小説の題にかけてあって、それも楽しみのひとつ。(「ゴミと罰」「毛糸よさらば」「死の拙文」「クラスの動物園」「忘れじの包丁」「地上(ここ)より賭場に」「豚たちの沈黙」)英語でのもじりをまた日本語でも、という訳者の苦労がしのばれます。

上質のユーモアで楽しいシリーズです。とくに思春期の子どもを持った主婦のみなさん、ぜひご一緒に〜。


奪取 上下   真保裕一著   講談社文庫

真保裕一は「ホワイトアウト」に続いて、2作目です。話題の映画の原作ということで読んだ「ホワイトアウト」でしたが、舞台も主人公もどうも違和感があって印象がよくなくて、なかなか次作に手が出せずにいました。たまたま薦められて読んだのがこの「奪取」。ひとこと、面白かった〜。元々コンゲーム(信用詐欺)物は好きなのですが、これは二転三転四転五転(笑)長編小説が何本書けるかもったいないと思うほどのプロットでぐいぐい押し迫ってきます。一気に朝の4時までかかって読みとおしてしましました。贋札作りをテーマにしているのですが、その薀蓄たるやすごい!いまどきのお札は印刷すればおしまいというものではないのです。惜しむらくは、薀蓄がともすれば饒舌に感じられるのと、タイムリミットの持ち込み方が(サスペンスを盛り上げるためには必要不可欠ですが)見え見えで下手かな。でもそんなことが気にならないくらい、ユーモアとサスペンスに満ちた優れたエンタテインメントと言えるでしょう。主人公たちはとってもいいやつら(!)ですし、エピローグもついにやりでいい終わり方だなぁ。ネタばれになるので詳しく書けないのが残念です。
 真保裕一は次男のマイ・ブーム。文庫は全部持っているらしいので、次々読めるということが楽しみなような、怖いような…。



琥珀の城ベルンシュタインブルクの殺人   篠田真由美著   東京創元社

 篠田真由美の処女作です。1991年の鮎川哲也賞の最終選考にまで残ったものの推理小説としての問題が指摘されたため受賞できなかったといういわく付の作品ですが、なんのなんのエンターテイメントとしては一級の作品で、やはり双葉より香んばしですね。
 なんと舞台は18世紀の後半のヨーロッパの片田舎、ハンガリーの山中の貴族の城。雪に閉ざされた城館の密閉された書庫で当主の伯爵が死んでいた。遺体は礼拝堂に安置されるが、一瞬にして消失する。呪われた館に渦巻く近親憎悪が、次々と不可思議な惨劇を呼ぶ。クラシカルな舞台設定と科学的トリックの配合が絶妙。

そんなころのこと、貴族の生活…想像できます?それを描ききってしまうところが何よりすごい。時代考証などもそれなりに綿密になされているのではないかしら。ま、読んでるのは素人ですけど…。エンターテイメントは、言葉は悪いですけれど、上手にだましてくれればそれでいいんです。そう言う意味では合格。
 篠田さんって少女漫画がお好きだったんじゃないかしら?かなり影響を受けておられる気がします。登場人物はみんなきれいだし、やおい系の美少年は必ず登場するし(蒼もね)、この本の近親憎悪は「ガラスの城」に通じるものがありますね。



箸墓幻想   内田康夫著   毎日新聞社

内田康夫の最新刊です。何冊目だろう?百何冊だとは思うのだけれど、実は全部買ってます。浅見光彦倶楽部会員限定の本まで…。ここ数冊は読んでなかったんですけれど、「箸墓幻想」は奈良が舞台ということで読みました。
「旅と歴史」の取材で奈良、箸墓古墳にやって来た浅見光彦。卑弥呼の古墳を巡って起きる不可解な連続殺人の謎を解きます。まぁ、いつもどおりの浅見さんです(^^;;わが母校がけっこう大きな役割を担っているところがなんとも。。
奈良県桜井市にある箸墓古墳は卑弥呼の墓ではないかとかなり高い確率で言われているのですが、宮内庁管轄になっていて、調査、発掘が一切できません。遺跡ではなく、皇室の先祖のお墓である、それを乱すことはよくないという考えらしいですが、学術的に調査することが社会的にプラスになれば許されるべきなんではないでしょうか?むしろ進んで調査する姿勢をとるべきなんではないかと思います。医学的に見て調査が有益ならば今亡くなった方のご遺体の解剖も致し方ないと考えるのがふつうの感覚でしょう?1500年以上前の陵墓を発掘することで考古学上の無益な論争に終止符を打てれば、それはすばらしいことなんじゃないかと思います。邪馬台国がどこにあったかというもう何百年も続く論争を箸墓古墳の発掘調査ひとつで終わらせることが出来るかもしれないのです。戦後50年以上たっても宮内庁の頭の中には人間天皇という感覚は芽生えないようです。天皇ご本人の考えを聞いてみたいものです。


心とろかすような マサの事件簿  宮部みゆき著   創元推理文庫

 「パーフェクトブルー」に続く元警察犬マサの事件簿です。5つの中・短編が入っています。短編ってあんまり好きじゃないんですけれど、さすがに宮部は読ませるなぁ。一つ一つの物語は他愛ないんですけれど、「パーフェクトブルー」でおなじみになった蓮見探偵事務所の面々のエピソードとして楽しめます。この面子で長編もまた書いてほしいな。
マサの一人称で書かれているので、犬や動物の気持ちもわかるかもしれません。わかったような気にさせるところがまた、宮部のうまいところで…